社外取締役鼎談

2023年5月に実施

経営を客観的な視点から監視・監督する役割が
期待されている社外取締役の方々に
稲畑産業の取締役会の現状の評価や課題について
お話を伺いました。

取締役 佐藤 潔

在任期間 :2019年6月~ 2023年6月

私の役割

以前所属していた会社はフラットパネルディスプレイなど半導体の製造装置を開発・販売していました。稲畑産業はディスプレイや半導体などの素材・製品を取り扱っていることから、そうした業界への親和性があると考えています。また、会社経営や海外ビジネスの経験を生かしてさらなるグローバル化のサポートをしていければと考えています。

取締役 萩原 貴子

在任期間 :2021年6月~現任

私の役割

長年にわたって製造業やサービス業の組織に関わる人づくりに携ってきたほか、グローバル市場での新規事業創出などについても経験してきました。特に人材開発や組織戦略の立案・推進に長く携わってきたことから、稲畑産業においても“時代の変化に挑戦し続ける人づくり・組織づくり”に貢献していきたいと考えています。

取締役(監査等委員) 濱島 健爾

在任期間 :2020年6月~現任※

私の役割

長年海外で過ごし、さまざまな交渉事を積み重ねてきた経験は、商社ビジネスと重なる部分があると考えています。M&Aの経験もあり、成長投資についてもサポートしていきたいと思います。とはいえメーカーと商社では視点が異なることから、その違いをうまく生かして議論を行い、新事業や成長戦略の構築に貢献したいと考えています。

※2022年6月に監査等委員会設置会社へ移行し、取締役(監査等委員)に就任しました。

Part 1 2022年度の振り返り

監査等委員会設置会社に移行して1年が経ちましたが、どのような変化を感じていますか?

佐藤

社外取締役の数が増えたことで、取締役会の議論ではそれぞれの経験や専門性に基づいた多様な意見が出ていますね。もともと当社では社外取締役を含めて活発な意見交換がされていましたので、その活発さに意見の多様性が加わったように思います。

濱島

執行サイドである社内取締役の方々の意識も少しずつ変わってきたように感じています。多様性のある社外取締役が増えた結果、1つの議題に対して「なぜそういう判断をされたのか?」「こういうリスクはどうなのか?」といった質問がたくさん出てくるようになりました。それに対して、執行サイドで再度熟慮した結果が、取締役会の意思決定に反映されています。「次回、もう一度深く議論しましょう」と、議論の継続性が積み上がっているのを感じますね。

取締役(監査等委員) 濱島 健爾

社外取締役が増えたことで、
より多様な意見が出て、
議論の継続性が生まれています

濱島 健爾

社外取締役に対する会社側の支援やサポートは、どのように評価していますか?

濱島

取締役会の前に事前説明会があり、私たち社外取締役からのかなり細かい質問にも担当者からしっかりと説明が得られています。

佐藤

担当者の説明に対して私たちの質問や意見はきちんと取締役にフィードバックされていて、取締役会の場でも改めて説明をしていただいていますので、サポート体制としては充実していると感じています。

萩原

「もう少し知りたい」と思ったら担当部門の方につないでいただき、説明を伺う機会を作っていただけます。商社のビジネスチャンスや背景となる多様な情報を勉強する機会をいただけるのも有難いですね。

佐藤

今後、新しい中期経営計画を議論していくわけですが、検討の前段階から我々を交えて議論する構想があることも素晴らしいと思っています。

Part 2 成長投資について

投資案件のスクリーニングを担う事業企画室を軸に、大五通商とのM&A契約が成立しましたね。

佐藤

M&Aは、「この市場に出るんだ!」「この新しい技術で市場を開拓するんだ!」といった大戦略を達成する手段としてあるべきだと思っています。そういう意味では、M&Aについてはまだ模索している最中かなと思っています。大きな戦略については次の中計に期待していますし、我々も議論していきたいですね。

萩原

会社がこれからさらに飛躍するためには、今までのカルチャーや経験値の延長線上でない何かブレイクスルーできる戦略が必要です。それを意識し、皆で議論するように変わりつつあることが、今後の大きな変化に結びついていくのではないかと私も期待しています。

濱島

政策保有株の売却で純利益が増えていますが、ずっとそれで利益が出せるわけではないですから、ここ数年の間にしっかりと次の利益を生み出せるような柱を作っていくことが重要です。オーガニックグロースだけを見ていけばいいわけではありませんので、大胆に成長投資にチャレンジしていく必要があると思います。

今後の成長投資にどう貢献していきますか?

佐藤

自分の専門知識が及ばない分野の場合は、戦略の妥当性の検証についてアドバイスしていきたいですね。

萩原

私は人事・ダイバーシティを専門的にやってきましたが、商社はやはり人材が重要です。特に新しい戦略分野で挑戦するにあたって人材と組織をどう作っていくか。そこに知見を生かせればと思っています。

濱島

私の場合は、「新しいビジネスモデルを作り上げる仕組みはできないか?」といった発想の点でお役に立てるのではと思っています。「買ってきて売る」という商社のビジネスモデルに加えて、例えばパートナーシップやコーディネーションを活用し、新しいビジネスモデルを作り上げていくのも一案です。その際、商社のフットワークの軽さやチャネルの多さ、長年の信頼関係と財務力は強みになると思います。

Part 3 人的資本について

1年前の鼎談では、萩原さんは「会社の伸びしろ」が大きいと期待されていましたね。

萩原

その期待は変わりません。ダイバーシティについては、私がご縁をいただいてから社内報での発信もされ、女性社員向けの施策を継続的に実施されています。また、社員一人ひとりが働きやすく、働き甲斐のある会社を作ろうと、さまざまな施策を着実に打たれています。
キャリア入社の方が増えてさまざまな部署で活躍されていることも、組織を変えていく力になっているのではと感じています。

佐藤

キャリア採用の社員から執行役員が生まれているなど、活躍の場を与え、きちんと評価して登用・昇進させている点は素晴らしいと思います。一方、外国人社員の活用は課題がありますね。特に現地法人の社長には、人を育てて昇格させるだけでなく、「現地の人を見つけて採用してほしい」という話をしています。

濱島

顧客が日系企業だけなら現地の社長が日本人でもよいですが、海外の売上比率を上げることを「IK Vision 2030」でも謳っていますし、今後、海外拠点間のビジネスモデルを活発化させていくには、現地の優れたリーダーが必要ですね。

人材育成の施策や仕組みについては、どのようにお考えですか?

萩原

人材育成施策や人事制度は「会社が社員にどういう成長と貢献を期待しているか」というメッセージとなります。更に効果的に人材育成を進めるには、経営陣が社員へ成長期待を言葉で発信し続けることが大事です。若い世代の人達や多様な価値観を持つ社員は、「この会社で成長できるか」を強く意識するようになっています。公正な評価の機会とともに成長への期待感を伝え意識的に育てていく姿勢が益々重要となってきます。

濱島

今、企業の研修は、座学だけではなくて、深く考えさせられて自己成長につながるような研修など、種類も豊富になってレベルが上がってきていますよね。

佐藤

そうですね。当社も社内研修はもちろん、社外の研修を受けていろんな考え方を学ばせるのもよいかもしれません。

萩原

社内研修を継続する良い点は、社内言語や価値観が共通化されることです。しかし、キャリア採用の方に限らずあらゆる多様性をより生かす組織に育てること、ビジネスにおいて社外との交渉、競争で優位な力を身に着ける為には、それだけでは十分ではありません。
“他流試合”に通用するレベルの知識、スキル、柔軟な価値観を身に着けていくことも同時に重要です。

取締役 萩原 貴子

キャリア採用社員がさまざまな部署で
活躍することが、組織を変えていく
力になると思います

萩原 貴子

Part 4 サプライチェーンの重要性について

マテリアリティの1つに位置づけられている「サプライチェーンの重要性」については、いかがですか?

佐藤

柔軟性があって修復可能な調達網はどの時代でも必要で、10~20年前に重視されていたのはBCPプランでした。しかし、複数の仕入先やルートを持ち過ぎれば経営効率が下がります。ですから、経営効率とのバランスが重要ですね。

濱島

アメリカが主張している中国経済からのデカップリング(切り離し)のようなことをすると、コストがかさんで、利益が全く出ない会社になってしまいます。そうではなくて、戦略製品の位置づけをしっかりと把握して仕入ルートを考えるデリスキング(リスク低減)の発想が必要です。各企業も同じような課題に直面している今の状況は、仕入先をたくさん持っている当社にとっては、リスクというよりもむしろ仕入先を紹介するチャンスと見なければなりません。

Part 5 指名・報酬委員会の活動状況について

皆さんは指名・報酬委員会の委員もされていますが、活動状況を教えてください。

萩原

委員長をされている佐藤さんを中心に、非常にフラットに意見が言いやすい環境を作っていただいています。新任役員に関する事前の情報共有だけでなく、実際に面談して私たちが意見を言う場も作っていただいています。役員の報酬体系についても、今、世の中で求められているさまざまな視点を積極的にテーマとして取り上げ、意見を率直に言える場を作っていただいています。

佐藤

私は他社でも同じような委員をやっていますが、当社は活動が活発だと思います。例えば、会社から毎年、社外取締役の候補者が上がってくるのですが、説明を受けた後インタビューをしてフィードバックするということを、この1年で3人ほどやりました。また、執行役員候補にもインタビューをして委員会から社長にフィードバックして、最終的には取締役会に報告しています。

濱島

当社では経営者の後継者リストを作られています。そのなかから役員候補にはどんな方がいるのか、社外の私たちがお話を伺うことができます。次のステップとして、候補者の方にプレゼンテーションをしてもらい、当社の価値観が共有されているのを確認できれば、非常に透明性のあるプロセスになるのではないかと思います。

Part 6 企業価値向上と株主との対話について

東証から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について要請がなされるなど、資本効率を意識した経営がますます重視されていますね。

萩原

外からの要求を受けることで、会社のなかの体制や社内で「これはこれくらいでいいよね」と思いがちなところを、改めて問題・課題と認識して整えていくという意味では、良い機会にはなっていると思います。

濱島

株価だけを見れば、配当や自社株買いなどで短期的には上がる可能性が高まります。しかし、大事なのは根本的な企業価値を上げることで、そのためには業績を伸ばしていく必要があります。業績が伸びればROEが上がり、それに伴ってPBRも高まっていくのではないでしょうか。目先だけを見ていては持続的な成長にはつながりませんので、創出した利益やキャッシュフローのうち、どこまでを株主還元に、どこまでを成長投資に回すのかをきちんと議論して、ブレーキを掛けたりアクセルを踏んだりしていかなければならないと思います。

萩原

取締役会でもよくPBRや株価に関する話題はあがりますし、株主からの意見を受けて施策を議論していますね。

濱島

最近、株価が上がってきているのは、投資家に指摘されることをきちんと受け止めていろんな施策を打ち、わかりやすい説明をしているからだと思います。株価を上げるうえで大事なのは、成長戦略を明示することです。常態的にPBRが1倍を超える状態を達成するためにもそれが欠かせないという話も取締役会ではしています。M&Aや成長投資についての発表はもう少し積極的にやった方がいいのではという意見は、他の社外取締役からも出ていますね。

佐藤

この会社がどうやって成長して、皆さんの期待に応えていけるのか。まずその真の成長戦略を決めていくために、積極的に株主・投資家の方々とコミュニケーションをとっていくことが大事だと思います。

取締役 佐藤 潔

会社がどう成長していくのか、
真の成長戦略を決めていくための
コミュニケーションが大事です

佐藤 潔