管理部門担当役員
インタビュー

将来の成長に向けた投資を積極化し、
グループの企業価値向上を加速させます。

代表取締役 専務執行役員
管理部門全般担当

横田 健一

連結売上高と営業利益は、過去最高を達成M&Aを含めたアグレッシブな投資を実行

中期経営計画「NC2023」の2年目は、情報電子事業の主力の1つであるフラットパネルディスプレイが、市況の悪化や在庫調整などの影響で想定以上に落ち込み、業績全体へのネガティブ要因となりました。一方で、前期に比べて為替レートがかなり円安に推移したこともあり、海外での需要が大きい合成樹脂事業などは、計画を上回る収益となりました。その結果、当社グループ全体の連結売上高と営業利益は当初の計画値を上回り、過去最高を達成しました。経常利益と純利益については、海外金利の上昇による支払利息の増加等もあり、計画値をわずかに下回りました。

NC2023では、重点施策の1つとして「将来の成長に向けた投資の積極化」を掲げています。この施策に沿って、M&Aなどを含めた成長投資の機会を探ってきました。
直近では2023年2月に、農水産加工品の製造・販売や食品包装資材の販売を手がける大五通商株式会社の株式を取得し、子会社化しました。このM&Aは、2021年に投資案件のソーシングを担う組織として新たに発足させた「事業企画室」が手掛けた第1号案件でもあります。子会社化に至った背景には、大五通商が保有するEC販売などの機能・ノウハウを当社グループ内に取り込むことで、機能強化や事業領域の拡大を進めるねらいがありました。
発足から2年余りになる事業企画室は、各営業部の担当メンバーとの連携を深めています。投資対象の探索・アプローチのノウハウや営業現場で培ったネットワークを活用し、双方のメンバーが密に意見交換しながら、将来有望な投資案件の発掘と事業プランニングを推し進めています。一連の社内の協力体制が今回のM&Aを成就させた要因ですが、加えて当社社員の人柄や熱意など総合的な人間力が同社の社長に伝わり、提案内容に共感していただけたことも、大きな決め手になっていると感じています。こうした定性的な要因を投資家の皆さまへロジカルに説明するのは、やや難しいと感じておりますが、われわれ経営陣は、創業時からの「愛」「敬」の精神や価値観が社員に深く浸透しており、日々の業務で実践できている証でもあると捉えています。

売上高の推移

売上高の推移

営業利益の推移

営業利益の推移

中期経営計画
New Challenge 2023
主要重点施策

  1. 主力ビジネスのさらなる深掘りと成長分野への横展開
  2. 将来の成長が見込める市場への多面的な取り組みと確実な収益化
  3. 将来の成長に向けた投資の積極化
  4. グローバルな経営情報インフラの一層の高度化
  5. 保有資産の継続的見直しと資金・資産のさらなる効率化
  6. 人的資本活用に向けた取り組みの強化

政策保有株式の売却は計画通りに進捗経営資源の配分の組み替えは着実に実施

現中期経営計画では、2024年3月期における定量目標の1つに「ROE10%以上」を掲げており、現時点でこの水準はクリアしています。ただし、これは政策保有株式の売却益を含んでの水準ですので、売却益で底上げされている部分はいずれなくなります。ですから、そうなっても利益水準が低下しないように着実に次の手を打ちながら事業を伸ばしていく必要があります。その手段の1つとして、「将来の成長に向けた投資の積極化」が一層重要になります。この点については社外取締役の方々からも提言をいただいており、常に意識をしていますし、再生可能エネルギーや食品・農業、モビリティ、リサイクル分野などへの投資をさらに加速させていきます。
成長投資のための資金調達手段については、主に政策保有株式の売却で得たキャッシュを充当します。すでに発表している通り、2021年3月末時点の政策保有株式の残高に対し、現在の中計期間中に50%、2027年3月末までに概ね80%の削減を計画しています。これらの売却益を内部留保するのではなく、資本コストを上回るリターンの持続的な創出を前提に、将来の成長に結び付く対象に資金を投じていきます。同時に株主還元も重視しており、累進配当を継続しながら一層の充実を図ります。さらに、今後は社債の発行などによって長期・短期の有利子負債バランスを意識しつつ、調達手段の多様化を進めていきます。
なお、2030年頃のありたい姿=「IK Vision 2030」に掲げた「連結売上高1兆円以上」「海外比率70%以上」という定量目標は、着実に進展しています。情報電子・合成樹脂以外の「第3の柱」の育成にも、継続して取り組んでいるところです。その時代ごとの社会変化に対応しながら、経営資源の配分を適切に組み替えていくのだというメッセージを、社内外に発信し続けることが大切だと考えています。

政策保有株式の保有状況

政策保有株式の保有状況

※政策保有株式:日本の上場株式

1株当たり配当金

1株当たり配当金

※2023年8月時点

投融資

(億円) 2022年3月期 2023年3月期 累計
成長投資 12.0 28.6 40.7
定常投資 20.1 27.8 47.8
合計 32.1 56.4 88.5

人的資本強化のフォーカスポイントは社員の健康と幸福度

商社である当社にとって、事業継続の基盤となる「価値創造を担う人的資本の育成・強化」は、2022年に特定した6つのマテリアリティの1つとしています。しかしながら、人材の育成・強化に資する諸施策がまだ十分には進展していないというのが、当社の現状であり課題と考えています。とりわけ、海外事業が急速に広がっているなかで、各国・地域のグループ会社や拠点に勤務するナショナルスタッフに対して、キャリア開発の機会を十分に提供できていないのが現状です。そこで 2023年度は、個々の経験や強み・目標に合致したキャリア開発の支援制度を整えていきます。並行して、成長の源泉となる社員に報いるために、特に海外拠点における給与体系の整備を含む待遇の向上を図っていくことも必要と考えています。
給与水準などの待遇改善の検討に加え、人的資本強化のフォーカスポイントは、社員の健康と幸福度、つまりウェルビーイングであり、これを土台に据えたうえで、各自が自発的に力を発揮できる制度・環境の整備が急務だと捉えています。その指標の1つとして、2021年から「従業員エンゲージメントサーベイ」を実施しています。労働環境・給与水準・人事制度などを対象に満足度の高い要素と低い要素を本部・室単位や国・地域単位で分析しているのですが、在宅勤務など柔軟な働き方へのニーズの度合いは国・地域ごとに大きく異なります。2022年に新設したグローバル人事部が、こうしたニーズを詳細に把握して、エリアごとに柔軟な制度を再設計し、労務管理の方針を出す役割を担っています。さらに従業員の福利厚生の充実とともに上場企業に働く者として株主との価値共有を図る観点から、2023年度より新たに従業員に対して譲渡制限付株式(RS)を付与することを決定しました。同時に持株会への奨励金も増やすことを考えており、こうした施策によって従業員の長期的な資産形成にも資する一方で、会社への愛着などが醸成されることが期待され、これも広い意味での人的資本強化の一環と考えています。
また、最も重要度の高い経営資源=「人材」を生かし、事業継続性を高めるには、女性の活躍推進をはじめ、ダイバーシティも欠かせない要素です。特に国内は今後、人口が減少していきますから、女性を積極的に採用し、より活躍できる雇用環境を整備することが不可欠です。性別・国籍にかかわらず、従来の常識にとらわれない、思い切った勤務制度の導入を検討する時期に来ていると感じています。

代表取締役 専務執行役員 管理部門全般担当 横田 健一

2022年度に実施した主な人事施策

  • グローバル人材の一元管理・育成を推進
  • ダイバーシティ向上(女性活躍、シニア活躍)のための制度整備
  • 従業員エンゲージメントサーベイを継続実施
  • 「 健康経営優良法人2023」に認定
  • 従業員持株会向け譲渡制限付株式インセンティブ制度を導入

環境や社会の課題と向き合いながら資源循環型の事業モデルを追求

近年、企業にサステナブルな経営を求める社会的な要請がますます高まっています。産業界ではサプライチェーン全体で環境負荷の低減を目指す動きが顕著であり、当社の営業担当者も、お客様から協力を求められるケースが増えています。今やサステナビリティの概念は私たちの商いに直結しており、もし事業の舵取りを誤れば、いずれ当社グループが選ばれなくなるという危機意識を持っています。社外取締役の方々も強い関心を持っておられ、多様な提言・意見をいただいています。2021年に設置したサステナビリティ委員会では、気候変動への対応など、重要なテーマについて部門横断で議論を進めているほか、事業活動では再生可能エネルギー分野をはじめ、脱炭素と廃棄物削減に寄与できる商材・ソリューションが順調に拡大しています。
気候変動問題は、商社にとって相応のリスクがありますが、それ以上に事業機会が大きく広がると予測しています。当社の場合、例えば脱炭素化に取り組まれているお客様から資材の調達方法などを相談いただいたり、仕入先のメーカーから最新の技術情報が得られたりすることもあります。当社では現在、このような商談で培った知見をヒントに潜在的な市場を見出し、複数の事業者をコーディネートすることで、資源循環型の新しいビジネスモデルを展開しようとしています。また、商社はメーカーと比較すると、1つの事業を立ち上げる際の設備投資などの資金がそれほど大きくなりません。したがって、時代の変化や新たなリスクに対して、柔軟に対応しやすい業態だと認識しています。
一方で、商社の生命線でもあるサプライチェーンのなかに潜む、人権課題のようなリスク面にも目を向けなければなりません。具体的な活動として、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた人権デューデリジェンスの仕組みづくりを開始しています。私たちは「『愛』『敬』の精神に基づき、人を尊重し、社会の発展に貢献する」という経営理念を掲げる会社として、人権リスクについて調査し、説明する責任があると自覚しています。

監査等委員会設置会社への移行で意思決定が迅速化し、ガバナンスも向上

2022年6月に、従来の監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へと移行し、1年余りが経ちました。社外の多様な視点や知見を取り入れて業務執行を監督する、モニタリング型の取締役会運営へと明確に舵を切ったわけです。独立社外取締役が過半数を占める構成となり、取締役会の議論の中身は、経営戦略や中長期的な課題へと自ずとシフトしていっていると感じます。また、一定の業務執行の意志決定は執行側に委任できるようになり、取締役会はそのモニタリングに専念できています。その結果、監査役会設置会社の時代と比べて、意思決定がかなり迅速化しています。前述しました通り、社外取締役の方々からは多様なアイデアや意見が出されており、取締役会の実効性も高まっていると感じます。
2023年度からは、取締役会とは別の日にボードメンバーが集まり、フリーディスカッションのような形態の会議もはじめてみたいと考えています。2023年は、次の中期経営計画の策定に着手する年でもあります。社外取締役の方々からは、「中期経営計画策定の前に中長期的な議論がしたい」との要望を受けています。そうした要望も踏まえ、年内には充分な時間を確保し、より良い計画づくりに向けた議論を行う予定です。

取締役会の構成

取締役(監査等委員を除く)
取締役(監査等委員)
独立社外取締役割合

最近、リスク管理の観点から注視しているのは、コロナ禍を機に在宅勤務を拡大する過程で、ランサムウェアや標的型攻撃などのリスクが年々高まっていることです。当社としてはリモートワーク増加を踏まえ、従来の境界型セキュリティに加え、ゼロトラストネットワーク構築に努めています。具体的には認証基盤(SAML認証)やアクセス制御の見直しに加え、従来のウイルス対策ソフトだけでは十分ではないことから、既にEDR(Endpoint Detection and Response)を海外拠点も含めて導入するなどエンドポイントセキュリティを強化しており、加えて体制面でも、社内に「セキュリティ対応チーム(IK-SIRT)」を設置し、社内外の情報連携を強化するとともに、外部のセキュリティオペレーションセンター(SOC)による24時間/365日の監視を行っています。

代表取締役 専務執行役員 管理部門全般担当 横田 健一

ステークホルダーの多様な意見・提言を、 経営に反映させていく

中長期的な企業価値の向上に向けて、当社は国内外の投資家の皆さまとの対話を重視しています。ただ、正直にお話ししますと、当社の時価総額規模だと、投資ユニバースに入れず、面談にまで至らないケースも多いのが現実です。それでも直近では時価総額が増加傾向にあり、面談の機会をいただけるケースも、少しずつですが増えています。
以前から当社は、機関投資家に向けて定期的にファクトシートを送付するなど、地道なIRを実施していました。こうした活動を継続し、今後も面談の場でいただく多様な意見・提言に耳を傾けていきます。まずは2022年に、役員報酬の算定方法を変更しました。業績連動報酬について、これまで当期純利益のみを指標としていましたが、資本効率や投資利回りについても考慮し、ROICを新たな指標に追加しました。さらに、サステナビリティへの対応を重視して、複数の外部評価機関によるESGスコアを、新たな指標として追加しました。
私たちは、時代を超えて社会から必要とされる商社であり続けるために、世の中とお客様が直面する課題を直視し、それらの解決に向けた行動を、当社グループの成長につなげていきます。そして、今回お話しさせていただいた、諸々のテーマと経営課題については、ステークホルダーの皆さまと、率直かつ丁寧なコミュニケーションを心掛けていく所存です。

業績連動報酬部分の指標

役職別固定報酬をベースに、
・税金等調整前当期純利益(一部の政策保有株式の売却益を除く)
・資本収益性(ROICとROE)
・株価
・複数の外部評価機関(FTSE Russell及びMSCI)によるESGスコア
の各水準に応じた係数を掛けて業績連動報酬を計算

当社株価とTOPIXの相対比較推移(2013年3月期~2023年3月期)

当社株価とTOPIXの相対比較推移(2013年3月期~2023年3月期)

※2013年4月1日の終値を100とした株価の相対値の月初値を表示

※PBR:期末株価(東証終値)÷1株当たり純資産