DISCUSSION稲畑産業の型にハマらない話


商社パーソンの仕事と一言で言っても、その内容もスタイルも千差万別。
その中でも抜きん出て自分らしさを発揮する3人による座談会をスタート。
営業先には皆勤賞で出社、新規開拓は海外インフラ、そして農業法人を起業するなど、
正解のない仕事を思いっきり楽しむ彼らの話を聞けば、
思わず「型にハマらんな〜」と言いたくなるはず!

プロフェッショナル職
伊藤 豪ITO TAKESHI
- 情報電子第一本部
- 第一営業部 第二営業課長
- 兼 第二営業部 第一営業課長
- 2005年入社
入社から一貫して情報電子第一本部に所属し、同部署の屋台骨を支える商材の一つ、液晶ディスプレイ関連部材を担当する。18年のキャリアを通じて磨いた情報収集と交渉力の手腕を持って、数々の大きな実績を挙げてきた。

プロフェッショナル職
下山 敬司SHIMOYAMA KEIJI
- 化学品本部スペシャリティケミカル部
- 東京第一営業課長
- 2006年入社
住環境本部に配属後、2019年に現在の部署に異動。住宅建材関連の樹脂原料や化学品原料、インフラ関連部材など、幅広い人脈ネットワークと高いコミュニケーション力を武器に、部署の垣根を超えた商材やビジネスにも多く携わる。

プロフェッショナル職
栃尾 裕輝TOCHIO HIROKI
- 生活産業本部食品部
- 第二開発課長
- 2006年入社
入社後は食品部に配属。メインビジネスでもある食品原料の冷凍果実や野菜、果汁などの国内外の仕入れ・販売を担当する。2015年に農業法人「アイケイファーム余市株式会社」を立ち上げ、現在は同法人の非常勤代表取締役社長を務める。
PROLOGUEプロローグ

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伊藤
こうやって3人で膝を突き合わせて仕事の話をするのは初めてなんじゃない? 下山君とは俺が大阪勤務時代にちょくちょく飲みに行ってたけど、栃尾君は気が付いたら北海道に行ってたし(笑)。
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栃尾
今も多い時は月の半分は北海道にいますよ(笑)。僕と下山君は同期なんですが、やっぱり部署が違うとなかなか会えないしね。
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下山
そうそう。せっかくの機会やから、今日は仕事の話をいろいろ聞かせてもらいます。まずは誰から話すか、サイコロで順番を決めましょう。
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− それぞれサイコロを振る −
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伊藤
まずは俺からか。今回のテーマは「稲畑産業の型にハマらない話」だけど、個人的には型にハマった仕事しかしてないつもりだけど、どうだろうか?
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栃尾
下山
いやいや、伊藤さんの猛烈営業マンぶりは他部署でも耳に入ってますから!(笑)。
行動力と誠実さが武器!
激動の液晶パネル市場を
駆け抜ける!



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下山
伊藤さんは入社以来、情報電子本部の主力商材でもある液晶ディスプレイ関連の部材を扱う営業を担当していますよね。その中でも一番おもしろかった時代はいつなんですか?
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伊藤
液晶ディスプレイ市場が活況だった2010年頃かな。当時は大画面テレビやスマホの普及が加速していた時期で、次々に新しいモデルが発売されて、市場が一番盛り上がっていた。僕は部材の中でも偏光フィルムを担当していて、1つ受注を確保するだけで数十億の売り上げが決まるから、どうやってスペックインするかに命を懸けてたよ。
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栃尾
実際にどうやったんですか?
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伊藤
それこそ用があろうがなかろうがお客さんの工場に通い詰めて、朝から晩まで一日中、商談ブースや社員食堂にず〜っと座ってた。誰かが通ったらすぐに話しかけたり、頼み事があれば何でも聞いたりして、仕事を待つんじゃなく、常に攻めの状態。多いときは週5日はそこが定位置だったな。
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下山
そこにずっといるから顔見知りもだんだん増えて、「昨日は来てなかったけど、なんで?」とか言われるんでしょ。まるで社員ですね(笑)。
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伊藤
そうそう(笑)。でも、近くにいるのといないとでは明らかに差が出るからね。顧客と雑談することで新モデル計画や生産計画といった情報もいち早くキャッチできるし、商談しようと思えばすぐに行える。電話やメールをするより、行けばそこにいるから断然話が早いから。競合他社も同じようなことをやってたけど、週1日来るか、週5日来るかで話は変わってくるし。
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下山
でも、ただ座って話をするだけじゃ、なかなか商売に結びつかないでしょ。
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伊藤
それに関しては、どんな些細な雑用でも問い合わせでも、すぐに答えを返すことを徹底した。自分で判断できないことも当然あるから、その場合はメーカーさんにすぐに確認して、とにかくキャッチボールを早くするのみ。お客さんも急いでいるから、2社同時に依頼することもあって、品質に大差がなければ答えが返ってきた早さで選ぶこともあるし、スピード感だけは重視したよ。
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栃尾
すぐに動いて答えを返してくれる安心感と伊藤さんの誠実さが信頼へと繋がっていったんですね。
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伊藤
確かに結果に結びついたね。当初の売り上げは30億円ぐらいだったのが、僕が担当になって、周りのサポートもあったけど2〜3年で100億円は超えたんじゃないかな。当社の偏光フィルムでは最高実績に近いかもしれない。そんなダイナミックに稼げる仕事に携われたことは商社マン冥利に尽きるけど、もう一度やれって言われたらもう無理かも(笑)。
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栃尾
下山
いや〜
ハマらんな〜。


目指すは
100億円規模のビッグビジネス!
海外インフラ事業にチャレンジ



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栃尾
下山君は今手掛けているのが上下水用耐震管を用いたインフラビジネスでしょ?
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下山
上下水用耐震管はその名の通り、耐震性と長期耐久性に優れた上下水道管のことで、日本は過去の大震災もこの鉄管のおかげで水供給や下水の被災が最小限に抑えられたんですよ。そこで、これを製造するサプライヤーさんと「海外の地震国に向けて日本の誇る技術を売り込もう」という話になって海外展開に取り組んでいるところ。
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伊藤
稲畑産業はこれまでODAは多少やっていたけど、民間企業独自の公共事業を手がけた例はあまりないでしょ。でも、海外でのインフラ事業となれば市場規模が桁違いにデカいし、ビッグビジネスに化ける可能性があるよね。
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栃尾
でも、従来の稲畑産業のコネクションが全く使えないから、アプローチ方法も相当手こずったんじゃない?
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下山
最終的にその国の市役所や水道局が窓口になるんやけど、スムーズに辿り着くことはまずないね。最初はJICAやJETROに主旨を伝えて日本や現地の大使館を紹介してもらい、その後は何人もの人を介して…と、ほんまに手探り状態でスタート。
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伊藤
結局、海外現地の水道局の人に会うまでどのぐらいの時間を要するの?
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下山
ある国はJETROから紹介してもらった先が、たまたまインフラを整備する部署だったなんていうラッキーもありましたよ。けれど、ほとんどの国は十数回も現地に通ったところで会えないことなんてザラです。ある国は、業界に太いパイプを持つ日本人が現地で居酒屋を営んでいるから「まずはそこに行って、なんとか話を繋げろ」なんてムチャな話もあったし。
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伊藤
ほんとか。絶対そんなん繋がらんでしょ(笑)。
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下山
それが本当に繋がったんですよ!でも、ハズレの時の方が多いですけどね。そうなると一銭の儲けにもならないし、会社も度量が大きいというか、そんなリスクのあるビジネスをよく許してくれたなと僕自身も思ってます(笑)。
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伊藤
でも、それは下山君がそれまで築いた実績があったからこそ、会社が信用して自由にやらせてくれたんだろうね。
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栃尾
しかも、ある国は受注に成功して、2〜3億円規模のビジネスになったと聞いてるよ。
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下山
その規模感ももちろんやけど、社会的意義がある仕事が実現できたこともうれしい。会社には「3年以内に100億円規模の商売にします」って断言しているし、実現させますよ!
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伊藤
栃尾
いや〜
ハマらんな〜。


前代未聞のチャレンジ。
農業経験ゼロで
農業法人を立ち上げる。



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伊藤
数ある稲畑産業の仕事の中でも前例のないチャレンジといえば、栃尾君が手掛けた農業ビジネスだろうな。
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下山
商社は常に新しいビジネスを開拓していかなければならないとは言われてるけど、北海道でブルーベリーを栽培する農業法人を立ち上げるとは思い切ったよね。どういったきっかけから始まったん?
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栃尾
もともと食品部門の中で冷凍ブルーベリーの日本輸入量はトップシェアを誇っていて、それを入社3年目で仕入れ統括を担当させてもらえることになって。その時に相場や世界各地の需要地の状況などの情報をデータ化したり、海外の生産現場にも通ったりすることで、日本のブルーベリー市場の歪さに着目するようになったんです。
あとはカナダの事業パートナーからの日本のブルーベリー市場で自分たちのノウハウを導入して栽培したらブルーベリーの青果市場で一定のポジションを築けるのではないかという提言ですね。この2つが上手くタイミングが合ったという感じです。 -
伊藤
例えば、それはどういうこと?
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栃尾
日本に輸入されるブルーベリーは加工用に使われる冷凍ものが圧倒的に多いんです。その一方で海外視察の時に食べたフレッシュのものが感動すら覚えるぐらいおいしかったんです。そこで、「もし国産でおいしいものが栽培できれば、マーケットとしてもっと伸びるポテンシャルがあるのでは?」と気付いたこと&事業パートナーが同意見であったことが発端ですね。
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伊藤
でも、稲畑産業の仕事は、本来なら右から左へモノを動かすトレーディングが中心でしょ。国内の農園と提携して…とは考えなかったの?
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栃尾
国内ではそれを安定供給できる規模の農園がなかったし、もしあったとしても、川上から川下までを担う機能を持たなければ、今後の市場の中でポジションを取ることは難しいと考えたんですよ。それもあって、「日本の農業は今、高齢化・担い手不足や耕作放棄地の増加といった問題を抱えている」「栽培に関してはカナダのパートナー会社が持つノウハウを活かすことができる」「販売に関しては、稲畑産業の販売力を活かせば既存商流ではない新たな商流を生み出すことができる」というさまざまなリソースを繋ぎ合わせたら、これは農業法人を立ち上げるしかない!と思って。それが2015年に北海道で設立した「アイケイファーム余市」の立ち上げの経緯です。でも、法人の設立前もその後も本当に長かったんです(笑)。
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下山
そりゃ稲畑産業にとっては前代未聞のビジネスになるしね。
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栃尾
1回目の審査会で敗北し、アプローチの手法を何度も練り直して、ようやく経営陣からゴーサインが出たものの、農地貸借の問題をはじめ、予定していた苗が輸入できず、事業計画を大幅に変更せざるを得なかったりとか。数年後、ようやく実った果実が熱帯低気圧で落下した時は言葉にならないぐらいのショックでしたよ。
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下山
そんな苦労の甲斐あって、今は大手スーパーへの直販も続々と増えていて、今期はすでに黒字収益になったとも聞いてるで。
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栃尾
農業は産業としては衰退していく可能性がすごく高いし、一度衰退したものはなかなか元には戻りませんよね。それを稲畑産業の資本や経験といったバッググラウンドを持って少しでも支えられるんだったら、これはすごく価値があるんじゃないかって思うんです。その上でこの事業が農業を変える一助や後世まで続く変化のきっかけになればと思っています。収益的にはまだまだですが(笑)、株主の皆さんからはこの挑戦を好意的に受け取ってもらっているようで、「今、一番応援したい事業」というコメントをいただいています。
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伊藤
下山
いや〜
ハマらんな〜。


ENDINGトークセッションを終えて


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伊藤
2人の話を聞いて、稲畑産業がさらに面白くなってきていると感じたな。
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下山
お仕着せの仕事・業務じゃなく、居場所は自分で作っていくという。一つ言えるのは、ビジネスを成功させたい、世の中の役に立ちたいという共通の想いを持った人たちと一緒に仕事をやれば、少なくとも何かの形にはなるということ。
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伊藤
うちの会社は「これしかやっちゃダメ」という仕事の枠が基本ないから、各自の裁量に任せて自由にやらせてくれる風土がこうやって次のビジネスに結実していくんだろうね。
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栃尾
商社はいわば“繋ぐ”ことが仕事。でも、今までのように単純に繋ぐだけではなく、20年後、50年後を見た時に“繋ぐ+α”があることで、商社の新しい価値を生み出せるんじゃないかと僕は思うんですよ。
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伊藤
確かにその通りかも。いや〜、まだまだ話足りんな。次回、飲みに行く予定を決めとこうか(笑)。